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「子供を捨てるなんて駄目ですよ?」
母屋への帰り道、修道院の前に赤ん坊を置き去りにしようとしたカイルに、アーシャはそう言いました。
するとカイルは振り返る事なく、呻くような…彼女の血を欲っする欲望を必死に押さえるような声で応えました。
「その子は、俺の…子供じゃ、ない。」
「なら、何故連れていたの?」
「拾ったからだ。」
「貴方が育てる事は出来ないのですか?」
「…出来ない。」
「何故?」
早くここを立ち去れば、アーシャの言葉に答える必要などない。
なのに、本能がザワザワとカイルの五感と精神を侵食していく。
――――血を寄越せ。
清らかな乙女。
その高潔なまでの赤い体液を、
なみなみと、
我に捧げよ――――――
気がつくと、カイルの手はアーシャのロザリオの鎖を千切っていた。
カシャリと音を鳴らし、十字架のキリストは地に落ち、カイルの足の下に眠る。
砕けた十字架から煙が上がり、靴底を突き抜け足裏に強い痛みが走り、カイルは呻く。
その様をみるなり、アーシャは彼に問うた。
「あなた…吸血鬼なの?」
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