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ふと眺めた青い空は、まるで絵の具を塗ったあとの絵筆を浸した、水受けのバケツの水の色だった。こんな空を共有した場所で自分と同じ人種が戦争に荷担しているなんて、この空並みに現実味が薄い。『世界』の様変わりには逆らえなかったんだろうな、なんて。
日々移ろう葉の色にぼんやりパンを銜えて考えていた─────ところだった。
「────うらっ、立てよ!」
……“平和”って、良い言葉だよね。突然の怒号に僕は耳に挿していたイヤフォンを外した。繋げていた端末機器も電源をオフにする。そっと振り返り壁越しに覗いた。途端に肩を落とす。微かに顔も歪む。溜め息も連動して、出た。
「どうしたんだよ、ビビってんのかよーっ」
「情けねぇ。男だろぉ? ちったぁ抵抗してみろよぉ」
チンピラだ。チンピラがいる。僕と同じ格好のチンピラが。
多数が単数を囲んでいた。単数は地に伏している。多数はそれを嘲笑っている。完璧な、暴行現場だった。いつから始められていたんだろう。容赦なく蹴られる単数────被害者は、かなり泥だらけだ。
……僕にどうしろと。口に銜えたままのパンを取った。噛み千切ったパンをもごもご咀嚼する。パン屋からの直送を謳っているだけ有ってこの焼きそばパンは人気に間違いの無い味だった。飲み込んで、再度見返す。あぁ、と落胆した。どうせなら、同級生とか同学年の争い事で有れば良いのに。そうならば、僕はまだ、何とか上手くやり過ごせる採算が在った。
残念ながら作業着とも呼べる通常着の袖のラインは、被害者が僕の一つ上、加害者が全員二つ上の色を示している。どう考えても、最低学年の僕の上の人たちだ。
暴力沙汰なんて正直、関わりたくないんだよね。学生の時分くらいは。
どうせ高等学校を、軍事学校を、卒業して召集が掛かってしまったら、嫌だって暴力を振るいに向かうのに。
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