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夏休みになった。他の連中が帰省する中、僕だけは残って荷造りしていた。倉中も今はいない。父さんの葬儀から、僕は倉中と顔を合わせていないことに何と現在気が付いた。当たり前か。僕が避けていたんだ。僕が教官にお願いして、しばらく教員宿舎の教官の部屋にご厄介になっていたのだ。クラスにも復帰しなかった。どれだけ特別扱いか、僕の願いは通ってしまった。
偏に僕が父を戦死と言う形で亡くしたからなのか、士官候補コース編入の試験を受けねばならなかったから個別指導になったせいか。どちらにせよ、倉中が僕に気を遣うことが在ったら僕は死にたくなると思うので、クラスの連中含め会わないで済む状況は有り難い限りだった。
たとえ倉中がアレで出来た人間でも絶対は無いんだ。さすがの倉中だって動揺するだろう、僕の父親が亡くなっていたら。余計なことを考えたくない僕は試験勉強も捗って無事試験も合格。来学期から士官候補生の仲間入りと言う訳だ。必然的に寮も移ることになった。
僕は机に置いて詰め込んでいたダンボールの重さを確かめて封をした。そこで体を反って筋を伸ばした。首も回す。ぐきぐき骨の音がする。携帯端末の時計を見ればやり始めてからすでに三時間以上経過していた。
僕はしばし休憩を取ることにする。飲み物を買いに部屋を出た。出る間際、隅に鎮座している主に置いて行かれたシャックが目に入った。
廊下を歩きながらアイツともお別れだな、なんて思った。倉中がいじっていると雑音が入ったときなんかやたら大きな音だったりして、しかも夜中にやるもんだから、何度「うるさいっ」と苦情入れたか。もうそんなことも無いな。倉中も良かったかもしれない。僕がいなくなることで、心置きなくいじりたい放題だ。僕は自販機を目指した。
誰もいない廊下は耳が痛くなる程静かだった。完全に人払いされたとか有り得ないのにこの静けさは何だろうか。まるで。
まるで、責め立てているようだ。僕は買ったばかりの缶を握り締めある場所を向かった。
「今日、風、強いな」
屋上だった。僕の避難場所の一つだ。陽射しも強い。けど風が吹いている御蔭でマシだった。
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