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現代、小中学校は統合して『義務教育育成学校』となり高等学校はすべて軍事関連の『兵士・幹部養成学校』のみとなった。初等生、七歳から十二歳までは普通の教育、主に世界史で社会などを中心に勉強しながら、協調性とか笑ってしまうが道徳を習う。中等生、十三歳から十五歳までは初等部の普通教育に加えてだんだん軍事訓練などが入って来る。中等部三年生なんてもう殆どシミュレーションが主流になっている。そして今僕のいる高等学校、高等生は十八歳までほぼ訓練ばかりになる。普通教科も在るには在るが、この段階まで来たら普通の成績優秀者より模擬戦や格闘戦の戦績優秀者のほうが持て囃されるのは自然の成り行きと言うか。実践学習が基礎のせいか校舎も寮も山の中に在ることが多く僕の学校とて例外ではなくて。
当然、娯楽からも遠くなる訳で。
「生き抜くためだ」と、口を揃えて大人は言う。子供たちは皆、鼻でその文言を嗤う。
……だから鬱憤が溜まるのは仕方ないし同情もするのだけど、いじめは格好悪いでしょ。ましてや“下級生いじめ”だ。でもこの年で「いじめ格好悪い」と面と向かって主張することが正しいなんて、絶対思わないし。だってそんなこと出来るのは、余っ程腕に自信が在るか単なる莫迦だ。
さて、どうしようか。僕は結構な『事なかれ主義』だと自負している。この風潮は僕の国のお家芸と言って良い、と勝手に思っているのだが。この辺については釈明もしなければ侮蔑に罵られても甘んじて受け入れる覚悟は在る。端末のディスプレイを見やる。……昼休み、終わるじゃないか。また、嘆息。
校舎に戻るには、この体育館は離れも同然の場所に建っていて、ぶっちゃけ未だ終わらない暴行現場を通らなければかなり遠回りになる。それだけじゃない。どれだけ遠回りを選んでも、たとえば体育館と校舎で囲むようになった校庭とは到底呼べない広大な訓練場を突っ切ったとしても、あそこにいる彼らからは丸見えで、僕がここにいたことがバレないと言えない。
あぁ面倒臭っと口の中で舌打ちをしていたら加害者たちが疲れたのか砂埃が止んでいた。そりゃあ、あれだけ無駄な体力を一気に使っていれば疲れもするだろう。チラ見でわかる程だ。不意に僕の目から被害者をしっかり細かに視認する機会を得た。好機と呼ぶかは別として。だが。
「……え……」
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