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「佐東くんねぇ、……」
僕は言い掛けてやめた。ニヤニヤと癇に障る笑顔の椎名になら毒も吐けるがきらきらと瞳を輝かせた一生懸命さ溢れる佐東くんには何か言える気がしない。僕が肩を落とすと邑久は苦笑しながら「まーまー。佐東くんにとって香助は“ニューヒーロー”なんだから仕様が無いってぇ」なんて宥めようとする。良いけどね、別に。てか。
「“ヒーロー”って……」
僕が嫌そうに顔を歪めると邑久が急に僕の肩を抱いて耳打ちして来た。「何」と言い掛けて「佐東くんはさ、」遮断された。
「香助が来るまで余ってたのよ。どう言うことか、わかるでしょ?」
「……おかしいだろ」
一瞬、邑久の科白が飲み込めず間を空けてしまった。おかしいだろ。僕が呟くと「おかしくないでしょ」邑久が反論した。
「香助が来て丁度の人数になって、私たちだけでチームにしたら一人余るの。簡単なことでしょ」
「……」
一回納得し掛けたけど、やはりおかしいと思い直す。邑久が言うことはおかしい。
「今の人数は一人増えたら確かに余るよ。だけどさ、邑久。一人減る分には余らないはずだ。違う?」
「……」
邑久が唇を尖らせて黙る。だって、僕がいなければ少なくとも邑久と椎名は二人になる。ここに一人入ればクラスのチーム分けは全部決まる訳だ。だって三人以上四人なのだから。僕がそのことを指摘すると邑久は苦虫を潰したみたいな顔で「香助、あのね」話し出した。
「このクラス、ってかこの士官候補コースって言うのはプライドの塊ばっかなの。エリートと言うのを鼻に掛けなきゃ生きていけないような、ね。そんな中で頭は悪くなくても、成績の平均点をちょっとでも下回れば、どんな扱いを受けるかわかるでしょう?」
想定内と言え、僕は眉間の皺が増えるのを止められなかった。不意に、普通科時代の己が脳裏に浮かぶ。僕もあの時分、補習はしても平均点はキープしていたのでここまでじゃなかったけど、侮蔑されたことが多々在った。多くは都香の取り巻き、都香信者にだ。
「本当、下らない」
僕の口からぽろりと落ちた。吐息混じりで、音量も最小で周辺は聞き咎めもしなかった。肩を組む邑久の外は。僕は首を巡らせて肩越しに佐東くんを見た。当の佐東くんは椎名と談笑していた。椎名の機転か佐東くんはこちらの会話には一切気付いていないようだ。
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