.ヨン / 前哨。

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 溜め息を吐きつつ言ちる椎名にさっくり応酬して僕は教官に配られた戦況モデルに目を落とした。今日の題目は「制圧戦」だ。目標はテロリストの活動拠点と言う設定。随分簡単なものだと思ったが情報量に視線を走らせると、その判断が間違いだとわかる。  少な過ぎる上曖昧なのだ。これでは、父さんのケースのように「実は間違いでした」なんて悲劇も生み兼ねない。シミュレートのくせに、そこまで精巧に設定を作られているのが戦略カリキュラムなんだ。……厄介だな。 「準備期間は一箇月の設定ね」 「その間に信憑性の高い情報を掴んで動くしかないな。駒のモデルは……」  邑久と椎名がああだこうだと議論する横で僕は総員データが僕の普通科時代在籍していたクラスだったことに気が付いた。ウチのクラスってことは倉中と……。僕は総員のデータを浚う。やっぱりだ。 「このクラス、練度はD。良くも悪くも無いわね」 「情報収集能力値は───」 「……。情報に関しては問題無い」  僕の一言に全員が目線を上げた。僕は「このクラスは情報系統に特化している者が多い。平均してこれだけの技術点を持っているなら潜入と、場合によっては攪乱が使えるだろう。一部部隊を編成して潜り込ませる。隣の村に」と告げる。目標の横十数キロ先に村が在り情報の一つにこの村で物資の調達をしているらしい。地図の見るに位置関係や地形からして間違いないだろう。僕の提案に邑久が食い付いた。 「ちょっと待って。隣の村ったって、確固とした情報も無い内から潜り込ませるの? 目標の体制がどうかもわからないのに。バレたらどうするの? なまじ出来たとしても、」 「流通を押さえるつもりですよね、鳴海くん」  猛反対する邑久の遮ったのは佐東くんだった。僕は「ああ」頷き「邑久」邑久を呼んだ。邑久は厳しい目で僕を見据える。僕は平然と「村と街との貨物や流通を押さえる。そこに紛れ込ませて徐々に範囲を詰める。街からの流通ルートなら警戒も薄いだろう。情報は何より大事だからな。慎重にしたい。が、期限も在る。実行の外にサポートを付ける。情報に割く反面拠点が若干手薄になるだろう」言い放った。目標と交流の在る村は、もっと目標から数キロ離れた街と取引していた。街の内部も気にするところでは在ったが、街には自軍の駐屯地が在る。ならば、ここの情報は確かだろう。と言うか、下手すれば街がテロの標的になり兼ねない。
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