.ヨン / 前哨。

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ぶっちゃけ、二人より僕の痒いところに手が届いている感じだった。思うに、今までは引っ込み思案で消極的な性分で己の主張など言えなかったのではないか。言ったとしても通らなかったのではないか。最後まで根拠も語らせてもらえないまま棄却されたのではないか。こう考えたらしっくり来るのだ。 「……佐東くんはさ、」 「え、あっ、はいっ!」 「畏まらなくて良いよ、『同級生』なんだから」  わざと“クラスメート”、でなく“同級生”と僕は言った。両方同じ意味を持つ単語だけど『同級生』のほうが対等感が有る気がして。何となく。佐東くんは瞠目して、次には微笑して「……、ありがとう、鳴海くん」照れ臭そうにお礼を口にする。僕は敢えてそこに触れず「うん、それでさ、」中途半端にした話へ戻した。 「佐東くんはさ、もっと自分の私見とか見解とか、言って良いと思うよ」 「え、」 「飲み込んだら苦しいし、良い結果になんかならないよ。間違ってたって良いじゃない。意見交換して間違いが在るなら正せば良い。考えを交わして不安だって取り除けるかもしれないだろう? 更に良いものに出来ることだって在る。一人で抱えて靄々するのなら、自信が無いなら言っちゃいなよ」 「……」  畳み掛けるように話して僕は一旦黙って佐東くんを窺い見た。佐東くんは俯き加減になってしまって面容は見ることが叶わない。佐東くんは僕の頬ぐらいの辺りに天辺が来る身長だった。都香と比べてやや佐東くんが勝つくらいか。邑久に至っては佐東くんと変わらない。と言うか、ミリ単位邑久が高い。 「佐東くんの事情も在るのに勝手なこと言ってごめんね。だけどね、僕は今回凄い佐東くんに助けられたと思ってるんだ」  佐東くんの様相を観察して僕は再度口を開いた。謝罪、あとに佐東くんを褒めた。 「えっ、」 「佐東くんは補佐に向いているんじゃないかな。佐東くんが補佐官なら上官は物凄い助かると思うよ」  佐東くんはとても控え目だ。しかし彼みたいな人が支え役には最適なんだ。邑久や椎名はかなり頼りになる。けれど二人は押しも灰汁も強い。補佐より指揮官や司令官向きだ。つまり派手で人目を集め人望も在る。補佐は、人望は有ったほうが良いけど目立ってはいけない。縁の下の力持ちであるのがベストだから。  佐東くんが芯を強く持ってくれれば良い補佐官になれると僕は見立てている。  僕が言葉を重ねようとしたとき。
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