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「良いよなぁ、佐東のヤツ」
「こんな大チャンスにさぁ、上位グループとチーム組めたんだぜぇ」
「アイツはさ、頭悪いくせに運だけは良いからな」
「そーそー。知ってるか? アイツさー、碌な案も出さねぇの。よくアレでこのコースにいるよ」
「ははっ、言えてるぅ」
下世話で品の無い笑い声が響く。僕の耳にしっかり入ったってことは佐東くんにもはっきり聞こえた訳で。萎縮する佐東くんを横目にしながら僕は大仰に、確実にそいつらにも届くよう大きく息を吐いた。途端、悪口を喋っていたヤツらはびくっと体を震わせた。僕は、都香の如く熱い人間ではない。都香のように他人のいざこざに首を突っ込む気性でもない。けれどね。
だからって、ぜーんぶスルー出来る人間性でもないのだ。
「……何か、今日は廊下が騒がしいね、佐東くん」
僕は、わざわざ真っ向から言いはしない。都香とは違う。都香は直接抗議するだろう。これでは駄目だ。喧嘩両成敗になってしまう。効率的に、相手だけダメージを受けねばならない。僕は、ゆえに佐東くんに笑い掛けた。佐東くんは突如世間話をのんびり振る僕に当惑しつつも「そ、そうですね」と肯定した。うん、それで良い。僕は笑みを深めて並べ立てる。
「最下位の人とか、悔しいのかな、やっぱり。順位が低いと、普段がどうあれ数字がすべてだし、ね」
コレでまた成績決まっちゃってるもんねぇー。僕はあくまでも世間話として話す。あの連中の順位なんて把握していないが、僕の然り気無い口撃に具合が悪くなっているようだ。今後、この成績を覆すために必死になるだろう。何たって成績が悪いことがどんなことより罪とする価値基準だ。汚名は返上したいに決まっている。
で、トドメ。
「今回の対抗戦、佐東くんの御蔭で本当良い働きが出来たよ。不思議なのは佐東くんの成績だよね。こんなに凄いのに。つくづく思ったよ。佐東くんの成績が揮わなかったのは、チームメイトが悪かったんだね。
仲間の良いところも生かせないようじゃ、人の上に立つ士官候補としてまず資質が無いよね」
部下も付いて来ないねーそんなんじゃ。僕の発した科白に廊下が凍る。だけども誰一人として抗弁しない。聞き耳を立てていた外野はおろか悪口集団も。当然だよね。
ここで口出ししたら“自分がそうだ”って認めるようなモンだから。僕は世間話をしているのであって“誰がどう”とは明言していない。
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