.ヨン / 前哨。

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 丁寧とか、鳥頭の脳内変換じゃ「自分に気が有るけど遠慮してる」もしくは「照れてる」みたいになると思うんだけど。私見を述べれば美少女顔をだだ崩れさせて頭を抱えている。「そうよねー……あー……」唸る邑久には悪いけど、顛末が見えない。椎名に視線で催促すれば一度咳払いをした。 「告られた。断った。付き纏われた。ここまではよく在る話だろう」 「そうだね」 「で、だ。当初例に洩れず人身御供を作ろうとした」 「“人身御供”?」 「『壁』だよ『壁』。彼氏役さ」  あー。僕は拳で手のひらを打った。彼氏ねぇ。でも。 「が、誰も彼も逃げるんだよな」 「だろうね」  あそこまで厄介な連中相手に名乗り出ようとする兵(つわもの)はいないだろう。普通なら成績上位者、美人の邑久の彼氏なんてハリボテ、偽りだって引く手数多だろうが、まぁねぇ……。 「香助が一学期からいたら即行任命だったんだが」 「嫌だよ。椎名がやりなよ。その口振りだと、一番に逃げたんでしょ」 「当たり前だろう。何で僕が」  言い切ったっ。コイツ言い切ったよ……! 僕は心の底から一学期は普通科で良かったと思った。経緯はどうあれ。 「まぁそうやって手を拱いている内にだんだんエスカレートして来て。とうとう風紀のお世話だ」 「風紀?」  僕が聞き返すのと同時に邑久が「あぁぁあああっ……」とか奇声を上げてのた打っている。だーかーらっ、佐東くんが泣きそうだからやめてって。涙目だよ佐東くんが。 「ああ。風紀委員の斎藤和刃(さいとう かずは)って人にね。二年在籍で次期風紀委員長最有力候補って言われているんだけど……知らないか」 「うん、知らない」  次期風紀委員長ねぇ。第一風紀自体僕にとっては「ああ、言われてみれば、いたような?」程度の認識だ。莫迦正直に白状すると椎名も幾分か立ち直った邑久も「うわぁ」と声にせず全身で表現して引いていた。佐東くんでさえ、引いてはいなかったが遠い目をしていた。 「……。香助はさー……もうちょっと周囲に気を遣ったほうが良いわよ」  呆れ気味の邑久に「そうだね」と共感する。確かに僕は無関心が過ぎる気がする。何て言うか。 「気を遣うって言うのは正しくないよな。香助は、自身には注意を払ってないって言うか」  椎名の挙げる欠点が的を射ていて僕は返す言葉が見付からない。そうなんだよな。何か。 「自分より注意を払う人間に気を取られ過ぎていたって言うか」
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