.ヨン / 前哨。

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椎名って飄々としてるんだよな。少し、倉中に似ているかも。 「邑久も苦手なんだ」 「うーん。苦手って言うか……」  はきはき話す邑久っぽく無く停滞していた。言い難い。邑久には事情が在るようだ。何か在るのか。僕も都香のことを言っていない訳だし邑久にだっていろいろ在るだろう。僕は追及しなかった。 「良いけど。じゃあ誰に言えば良いのさ」 「そうねぇ……ああ、鈴木(すずき)さんとか良いかもね」 「鈴木? 誰」  僕が尋ねると今度は佐東くんが見兼ねて教えてくれた。 「邑久さんが言っているの、多分鈴木先輩のことだよ。鈴木先輩、鈴木千尋(ちひろ)先輩はね士官候補コースの二年で、現在の生徒会副会長だよ。来期の生徒会では生徒会長になるんじゃないかって」  だよね? 佐東くんが伺えばこくんと邑久が肯定した。 「へぇ」  風紀の次は生徒会か。僕が生返事をしていると椎名が「鈴木先輩は覚えて置いたほうが良い」と告げられた。え、と僕が目線を移すと椎名は眼鏡を中指で押し上げ理由を述べた。 「香助、生徒会に選ばれる大半は大抵士官候補の成績上位者なんだ」  椎名曰く生徒会にしろ上に立つ人間と言うのは方々で発言権を持つ人物でなくてはならない。が、軍事学校であるこの学校で昔の学校のように行事が在る訳でも無く仕事と言えば学校の運営だそうだ。  でもって学校の運営って主にデスクワークの雑用だ。戦績重視の普通科、技術重視の整備士専科には至って無理。こうなると。 「成程ね。座業の士官候補コース、しかも余裕が在る上位者、と」  あー、そうか。僕は上位者ですね。曲がりなりにも。鈴木、鈴木千尋。頭の中で名前を復唱していた僕。その間も椎名は話は続いていた。 「風紀も、風紀委員は普通科、整備士専科でなるヤツもいるんだが、委員長は士官候補が必至なんだと」  風紀に入るぐらいだから、腕っ節は在るんだよ、と。詰まるところ、斎藤とやらは頭も良い武芸者と言うことだ。ふぅん。僕は斎藤和刃の名前も脳裏に刻んで置いた。  とは言え、僕としては覚えて置こう、程度だった。この当時の僕は。  まさか今後繋がりが出来るとか、僕は露とも思っていなかったんだ。  
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