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「失礼します」
執事であるトーゴが、私の部屋へと入ってくる。
「本日はローズヒップティーをお持ちしました」
「ありがとう」
私がテーブルにつくと、慣れた手つきで紅茶を入れる。
フワリとお茶の匂いが香り立つ。
私は一口飲むと、トーゴに向かって感想を言った。
「今日も美味しいわ。ありがとう」
「いえ」
トーゴは恭しく頭を下げると微笑んだ。
穏やかな優しい微笑み。
私を虜にしてしまった微笑み……。
私がカップのお茶を飲み干すと、トーゴは器をワゴンに乗せ退出しようとする。
「待って」
「はい?」
トーゴが振り返る。
「私を……抱きしめて」
トーゴの顔が一瞬曇る。
「それは、『命令』ですか?」
「そうよ」
私がまっすぐに見つめながら答えると、トーゴはフッと溜め息をついた。
「お嬢様……」
「私の命令が聞けないの?」
そう言うと、トーゴは「分かりました」と言って私の方へ歩み寄る。
そして、そっと壊れ物を扱うかのように優しく抱きしめた。
私はトーゴの胸に顔を埋める。
「こうしていると、安心する」
「お嬢様……。いけません、こんなこと。旦那様が悲しみます」
トーゴが困惑したように言う。
「見合いの話が出ていると聞きました。なのに……」
「私が好きなのは貴方なのよ!」
おもわず声を荒げてしまう。
そんな私を見て、トーゴは悲しそうな顔をした。
「お嬢様の気持ちは嬉しいです。しかし、私はこの家に仕える執事。……執事ロボットなんですよ?」
現実を突き付けられ胸が痛む。
そう。彼は父の会社が造ったA.I。
見た目こそ普通の人間と変わらないが、人工知能を有したロボットなのだ。
識別番号が「105」。だから私が「トーゴ」の名を付けた。
「私には、人を愛する事は出来ません。そのようには造られていないのです」
「やめて……」
「お嬢様。現実を受け止めてください」
「分かってるわよ! 分かってるけど……」
私はその場に泣き崩れた。
そう。それが分かっていて、私はトーゴを好きになってしまった。
叶わぬ恋だと分かっていたが、それでも、想いを止めることは出来なかった。
「お嬢様」
トーゴが私の肩に手を触れる。
「私は貴女を愛する事は出来ませんが、この身体が動く限り、貴女にお仕えします」
「ほんとに……?」
「はい。貴女が、そう『命令』するならば……」
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