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私は優帆ちゃんの方を振り返る。
すると先ほどと同じくグーと親指を立てていた。
まさか…徹に教えてくれたの?
本当にありがとう。
「ありがとう、長野さん。バイバイ」
「バイバーイ。また、来てね」
手を振る優帆ちゃんに私も手を振る。そして…徹が出してくれた右手を握る。
…徹の右手は冷たかった。
ごめん…徹。…寒かったでしょ。
私は徹の右手を暖めるように、ギュっと握った。
「恵…マフラーありがとう」
「…こちらこそ。付けてくれてありがとう」
「何が食べたい?」
食べたいもの…。
「オムライス…オムライスがいい」
「そんなんでいいの?」
…そんなんって…。
私にとったら、大切な味なの。
徹の…大切な味。だから、好き。
「恵…?」
家に向かい歩いていると、私の名前を呼んだ人が前から歩いてきた。
「…お父さん?」
私が呼びかけると、コクリと頷くお父さん。
…会うのは…9年振りだね。
…久しぶり。
昔から変わらない優しい顔つきのお父さん。
愛されるなら…今の人じゃなくて、お父さんが良かった。
…どうして別れたの?
もう一度…私の所に戻ってきて欲しい。
「えっと…立村英輝です」
徹を見て、自己紹介するお父さん。
その顔は、少し驚いていた。
そりゃ…関係無い人と手を繋いでるもんね。
「僕は雨宮徹です。訳あって…恵さんと一緒に暮らしています」
その言葉を聞いて、苦笑いをする。
…アザのこと知ってるのかな…。
「恵は自己主張しない子だから…大変じゃないか?」
…してないわけじゃないんだけど。苦手なだけで。
「全然です。むしろ、今まで1人だったので楽しいですよ」
「そうか…それは良かった」
…徹の楽しいって言葉に嬉しくなる。
そう思ってるのは…私だけじゃないって。
でも、そんな嬉しい気持ちは長く続かなかった。
「雨宮くんには、悪いが…少し恵を預からせてくれ」
…え?…お父さん…何を言ってるの?
「分かりました、恵…俺はいつでも待ってるから」
「…うん。…またね」
…私は徹と別れ、お父さんについて行った。
お父さんに会えたのは嬉しいのに…どうしても心が晴れない。
…どうして?
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