0人が本棚に入れています
本棚に追加
「うーん。これはかなり骨が折れそうだ」
信吾が腕を組んで唸った。信吾は四番の左打者で、左腕投手を苦手としていた。
「それで、うちのチームはどんな作戦でいくの?監督クンのご宣託はないの?」
監督の伊藤直美が訊いた。秀太は伊藤良平が頷くのををチラリと見て答えた。
「監督クンの出した作戦はずばり、『ボディーブロー作戦』です」
「ボディーブロー?身体を強く叩くってこと?」
「ボクシングで使う言葉で、相手の腹部を打ってスタミナを奪っていく作戦です。秋葉の打者はファールで粘って秋山に球数を多く投げさせること。そして、投手は粘り強く投げて、相手に残塁の山を築かせることです」
直美は頷いて、メモを取った。信吾が不安な面持ちで発言した。
「しかし、それは一歩間違うと大量点を取られて、こちらはまったく得点できないという展開になりかねないぞ」
良平が秀太を制して答えた。
「その通りです、キャプテン。リスクは大きいです。もともと、勝てる相手ではないので仕方がないでしょう」
そんなやり取りで終わった「戦略会議」だったが、秋葉高の先発投手はこれまでの速球投手の上田明ではなく癖玉の軟投派で制球力の良い右腕投手の朝永千春でいくことが決まった。
さて、いよいよ試合開始の時間となり、主審のプレーボールが宣言された。先行の朝田高の三塁側観客席は威勢の良い応援が始まった。試合は前半、朝田高のバッターがトップバッターから打ち気満々で、秋葉高の朝永投手は持ち前の軟投でそれらをかわした。だが、秋葉高も朝田高の秋山投手の前に三振の山を築いた。
試合が動いたのは中盤の六回だった。朝田高の先頭バッター、二番の城山が朝永の真ん中に入ってきたスローカーブをセンター前に持って行った。ノーアウト、ランナー一塁で、朝永は朝田高の破壊力あるクリーンアップを迎えることになった。疲れの見えてきた朝永に秋葉高ベンチが動いた。
最初のコメントを投稿しよう!