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「監督クンのご宣託はどう?」
監督の直美が良平と秀太に声を掛けた。秀太は城山までのスコアデータを入力して、監督クンのご宣託をリクエストした。
《 ピッチャー交代、朝永から上田へ 》
良平が告げたこのご宣託を受けて、直美は主審に右腕の上田投手への交代を伝えた。一塁側観客席の晶子たちにも秋葉高がピンチを迎えていることが分かった。
「なんか、試合が緊迫してきたわね」
観客席に並んで座る朋美が晶子に声を掛けた。
「そうね。相手の打順が良いから、この回はピンチになりそう」
晶子たちの心配は現実のものとなった。朝田高の三番が送りバントに成功し、ワンアウト、ランナー二塁で四番の冴島が右バッターボックスに入った。それは上田の初球だった。球速140キロの直球が真ん中高めに入ってきた。上田の失投だった。キャッチャーの大友俊一は思わず、目をつぶった。「カーン」という乾いた金属音が場内に響いた。冴島がフルスイングした打球はライナーとなってセンターの頭上を超え、神宮第二球場の外野フェンス後方のネットを直撃した。主審がホームランを宣告した。
「おい、おい。マジかよ」
三塁ベースを踏んだ城山を横目で見ながら、三塁手の信吾からボヤキが出た。一塁側ベンチでは監督の直美も頭を抱えた。
「監督クンが間違えることもあるのね」
「間違ったのは上田で、監督クンではありません」
良平が監督クンをかばった。確かに、良平の判断は正しかった。上田はその後、朝田高の五番、六番バッターをそれぞれ、レフトフライ、ショートゴロで打ち取り、後続を断ったからだ。だが、後半に入っての二点ビハインドは、まだ秋山投手攻略の糸口も見えない秋葉ナインには重く感じられた。
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