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1.
嘲笑する少年達の声が聞こえる。ぼくを貶めるための声。ぼくを傷つけるための声。少年達の声は楽しげに、嬉しげに、面白げに、いっそう高さを上げていきながら、ぼくを押し潰すかのようにぼくの全身を踏みつけて行く。
ぼくはその声をかき消すように必死に声を張り上げていた。いやだやめてくれ。お願いだからもうやめてくれ。品野。三宅。藤間。安堂。・・・恭也。誰か、誰でもいいから、誰かぼくを助けてくれ。お願いだから、誰かこいつらをどうにかしてくれ。だが、誰も、止めてはくれない。クラスメイト達も誰も助けてくれない。ぼくはまるで身を丸くして必死に耐え続けるしかない衰弱しきった犬のように、四人の少年達に寄って集って踏み潰されている事しか出来ない。
ぼくを踏み潰していた少年の一人が、教室の隅にあるロッカーに向かって歩いていき、そこから何かを取り出してぼくの方へと戻ってきた。細長い木で出来た自在箒の長い柄を、ぼくの腫れ上がった右目に向け、にやにやと薄笑いを浮かべてそのまま降り下ろそうとする。いやだやめてくれ。そんな事はやめてくれ。なんでもする。なんでもする。なんでもするから、だから、だから、だから
「う、う・・・ うわあぁぁぁぁぁっ!」
ぼくは掛けていた煎餅布団を跳ね飛ばすと、ぜいぜいと喉を鳴らし、右手で喉をさすりながらせわしなく荒く息を吐いた。耳の奥がドクドクする。心臓の鼓動が早すぎて、胸の奥がひどく痛い。冷や汗を拭っているとドンドンドンと乱暴に扉を叩く音がして、ぼくは布団の上から立ち上がると慌てて玄関へと走って行った。寝癖を気にする間もなく扉を開けると、そこには隣室に住んでいる大家の女性が、ぼくを下からにらみつけるように迷惑そうな顔で立っていた。
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