第1章

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 ホテルの部屋に入るやいなや、男は女の唇に吸い付き、雪崩れるようにベッドへと倒れこむ。  女の顔は、優しさを纏いながら、男の唾液の臭いに眉を潜める。  薄いワンピースを胸元からはだけさせると、歯を剥き出してむしゃぶりつく。女は、痛みを堪えながら男の薄い髪を手で籤く。  胸に埋まる禿げた頭が可哀想に思えた。金でしか女を買えないのだから。この男から金を取ったら何も残らない。ただの汚いおっさん。 「ほら、いいだろ?欲しかったんだろ?」  寝言も起きていて言えるなら幸せだ。女は、黙って目を閉じる。今、自分の股間をまさぐる物体は道具。心の無い機械。 「あぁ、凄いよ。最高だ」  早めにくたばってほしいと願いながら、女は閉じた口の奥で歯を食い縛る。  男が達すると、半分蹴りを入れながら脂肪まみれの体を、自分の体から引き剥がす。打ち上げられたアザラシのような姿は、見ていて吐き気がする。  荒い息を整えられず打ち上げられたままのアザラシを横目に、ワンピースを纏い、念入りに歯磨きをすると自分の痕跡を全て消してホテルを出る。  いっそ、本当に競りに出されてしまえばいいのに。そんなことを思いながら、ヒールを高鳴らせて夜の街を歩く。
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