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翌日、いつも通りに仕事をしている。昨日のことは、まるで夢物語。現実味が無く、記憶も朧で、それは私の中では非現実として消化される。
「ねぇ、ちょっと」
初野さん。よく話し掛けてくれる二才年上の同僚。悪い人ではないけれど、馴れ馴れしいところが私は苦手だった。
「あの若い子。ずっとこっち見てるよ」
初野さんが目配せした方に視線を向けると、睨むようにこちらを見ている海が居た。
私が気付いたことに気付くと、真っ直ぐにこちらに向かってくる。
「やだ!ちょっと、えっ!どうしよう!」
「初野さん、私の弟だから。大丈夫ですよ」
そんな会話をしている内に、海は私の目の前に辿り着いている。
「弟!?やっだ!早く言ってよー。刺されるかと思ったじゃない!」
大爆笑している彼女を横目に、海へと視線を移す。
「姉がお世話になっております。今日は四時半で上がりだと聞いたので迎えに来ました」
「あ、あー!そうね、うん、いいわよ!上がって上がって」
頬を奇妙に歪ませる初野奈美の笑顔に悪寒が走る。何も悪いことは言っていないしやっていないのに、こんなにも他人を不快にさせる人間が居るのだ。
彼女との会話で、私は敬語を取ったことはない。
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