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「あの人……場の空気読めないタイプだね。しかも天然」
着替えて裏口で待つ海の元に行くなり、海はそう言う。ずっとそう思っていた。悪気無く毒々しい言葉を発する彼女は、実際職場では浮いている。
「ムカついたらさ、言いなよ。陸は絶対我慢しちゃうでしょ」
我慢しなければ問題が起きるから。特に女ばかりの現場で思ったことを口に出すことはタブーだ。
どんな人間でも必ず陰口は言われる。出過ぎれば当然打たれ、引き過ぎれば暗いと言われる。中間を保てる人間等皆無に等しい。
「ね、僕の店に行こうよ」
「僕の店?」
「働いてるとこ!」
海は私の手を掴むと走り出した。見上げた空は真っ青で、雲が一つも無い。ブルーの画用紙に描かれた爽やかな青年の、まるで写真を見ているようだ。
「おはようございます!海さん!」
連れて来られた店は、ダイニングバーだった。既に出勤していて開店準備をしていた従業員が次々に海に挨拶をした。
「……海さん、それ……?」
一重で背の高い従業員が、私を見据えて言う。モデルのように整った顔と体型は、嫌でも目が行ってしまう。
「雅……それって言うな」
「すみません……」
海に制され謝罪の言葉を言いながら、雅と呼ばれた男は私を睨んだ。
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