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コーヒーを入れると、トレイに乗せてサイドボードに置く。前日に焼いていたバターロールは自信作。
「砂糖とミルクは?」
「んー……今日は砂糖一つ」
違和感でしかないのに、この男とのやり取りは自然だ。だって、私は男の名前も知らないし、出会ったのはおそらく昨晩。
「コーヒー美味いね。パンも」
「そう?」
やたらと綺麗な顔をした男は、コーヒーを飲みながら私の髪や頬に触れ、パンを口に加えたまま腰や太股を撫でる。
「あの、ねぇ。私……昨日の記憶が無いの」
男は、きょとんとしてから大きく笑い出した。
「なんだ、君も?僕も覚えてなくて、でも君が追い出さないから覚えてるのかと思った」
きっと、お互い名前も覚えていない。なのに、どうして自然にコーヒーを飲めたのだろう。
「私、陸。貴方は?」
「僕は、海」
りくとかい。彼は偽名かもしれないけれど、今の私にはどうでもいいことだった。
彼の手は、滑らかで心地好い。頬を滑る彼の手に、つい目を瞑ると、小さな笑い声が聞こえる。
「あんた、可愛いね」
全身の熱が顔に集まるのを感じると、立ち上がってキッチンへと駆け込む。何か冷たい物が飲みたい。今すぐ全身を冷やさなくては。
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