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水で顔を冷やし、氷を口に含んで呼吸を整える。あれは、私には不必要な物体である。あんな物が目の前をうろついていては、生きた心地がしない。
全身を冷やすことに集中していた私は、忍び寄る足音に気付いていなかった。
「ねぇ、陸」
背後から抱きすくめられ、小さくなった氷が喉元を通り過ぎる。
「僕、此処にいてもいい?」
「……此処に……いる?」
「うん。一緒に暮らそう」
心臓が高鳴り過ぎる。鼓動と共に皮膚が震えている。引いた熱が、再び顔に集まり、振り返ることができない。
「駄目?」
「……だ、めじゃ……ない」
何とか振り絞った声はか細く、彼の吐息にすら消されてしまうのではないかという程に小さかった。
彼は、抱き締める腕に力を入れてうなじにキスをした。
「っ……」
つい反応してしまう私を楽しむように、彼の唇と手は好き放題に動き出す。肩口を強く噛みながら、内腿を優しく手が滑る。自然と突き出された尻に宛がわれる手の熱に、目頭が熱くなる。
「お願っ……やめて」
「やめてほしい?」
「ふぅっ……」
泣いていた。悲しくはない。怖くもない。処女なわけもなく、今まで当たり前にあった行為。なのに、彼には見せたくなかった。あの時の自分を見られたくなかった。
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