第1章

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 顔にかかった髪を払い、対面させると、彼は額にキスをした。 「あんた、本当に可愛いね。はまりそう」  この時は、言っている意味が解らなかった。考えられなかったから。ただ、目の前の綺麗な男に圧倒されていたから。  結局、海は私のマンションに住み着いた。仕事はしているらしく、決まった時間に家を出て、決まった時間に帰ってくる。 「陸は何歳?僕、二十歳なんだけど」  海の年齢を聞いて血の気が引いた。私は、今年で三十路。 「多分かなり年上でしょ?」  そうか。海は、遊んでいるだけなのだ。年の割に初で、都合の良さそうな私を利用しているだけ。 「うん、今年で三十路だよ」 「見えないよね。最初年下かと思った。でもさ、なんかしっかりしてるよね」  しっかりした女が、突然男を家に住まわせるわけがない。海は、賢くて、優しくて、可愛い。屈託なく笑う笑顔、絡み付く腕、柔らかい唇。どうしても憎めない。粗雑には扱えなかった。 「明日、休みなんだけどデートしようよ」 「私は……仕事だから」  夕飯の洗い物をしながら答えると、背後から手が伸びてくる。このシチュエーションに私は弱い、ということに海と住んでから気付いた。
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