第1章

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 伸びた手は、目の前で交差すると、首に絡み付く。右手で私の左頬を包むと、親指か優しく撫でてくる。  洗い物の手は止まり、小さく震える体が忌々しい。海に触れられると、嬉しいのに、どうしても申し訳ない気持ちが勝り、動けなくなる。 「明日、早番でしょ?」  耳朶に柔らかな感触。ぴくりと体が震え、無意識に背を反らせてしまう。 「迎えに行くから、デートしよ?」 「っ……うん、わかった。わかったから……」 「ん?」  離れてほしいと訴えようとした時、私の体は反転させられ、突然目の前に綺麗な顔が映る。 「だーめ。ちゃんと見て」  両頬を大きな手で包まれ、上向かされる。大きな瞳の中心に、私が映っているのが解る。 「……陸。僕のこと嫌い?」 「き、嫌いなんか、じゃ……」 「じゃあ、どうして目を見てくれないの?どうして触ると逃げるの?」  心臓が痛かった。鼓動の早さと、海がする質問の内容とで、体ごと破裂してしまいそうだった。 「……海が……すご、く……綺麗だから」  瞼を伏せて、涙を堪えながら言う。すると、唇にふわりと心地好い感触がある。海は、私にキスをした。  触れるだけのキスを繰り返す。息を止めてしまった私は、苦しくて。途中で息を吸い込む為に口を開けた。 「舌、出して」
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