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青く澄みわたる空はどこまでも広がって。
白い雲がその身を伸ばして浮かび、風に流され。地上にふりそそがれるような空からの風が、鷲津武志(ワシヅ・タケシ)の頬をなでる。
タケシは仲間たちといつも走っている黒沢峠(こくたくとうげ)の道の脇の、小さな駐車場の片隅にある自販機のそばで、缶コーヒーの缶を手に愛機の青いYZF-R6をじっと眺めていた。
サソリのマークのある社外製マフラーに、カウルに貼られたステッカーがレーシーでいかす、とタケシは思っている。
このYZF-R6は走り屋仕様のYZF-R6だった。
夏も終わりを告げようとしている時期で、どこからともなく早起きしたツクツクホーシの鳴き声が聞こえる。
さっき昇った太陽が顔を出してくると同時に、汗ばむような陽気になってくる。
あちぃ、と思いながらも、タケシは腹まで開けていた青いライダーズジャケットのチャックを胸元まで閉める。
右のミラーには、白地に炸裂したかのような派手なブルーの模様の入った、自家塗装の、OGKのヘルメットが掛けられ、シートにはグローブがだらんと指を伸ばして置かれていた。
愛機のかっこよさに浸り、手に持つ缶コーヒーの缶を口もとに持ってゆき、残りを一気に飲みほそう、とした時。
待避所に滑り込むようにしてやってきた黒いワゴン車、アコードワゴン。中にはチャラい感じの男女が四人。どっかへドライブへいくところ、というところか。
四人とも車から降り、駐車場の自販機へと向いながら、タケシとYZF-R6を見て。
「おい走り屋だぜ」
「走り屋ぁ~? サーキットで勝負する度胸のないジコマンオナニー野郎のことか」
「いや~んださださ~」
「オレ知ってるぜ、ドリフトって速く走れないんだよ。ドリフトで速いなんて漫画だけの妄想なのに、走り屋ってそれをマジで信じてるんだよ」
「え~、走り屋って、妄想でオナニーしてんの……。げろげろ、きもわる!」
と、言いたい放題だ。
最近はなんか、漫画がきっかけになって走り屋がブームになっているが。でまあ、流行に噛み付くことが硬派だと勘違いしているヤツらの格好の悪口の標的になっている。
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