エピソードⅠ この野郎! その1

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 だとか言っているうちに、その走り屋はもう見えなくなっていた。 「ちぇ、逃げ足だけは早いぜ」  そんな負け惜しみを言っていると、何かがミラーの中で光った、かと思うと、何かが聞こえてくる。  なんだと思う間もなく、それはあっという間に追いつき。  ぐわん!  と殴りつけられるような唸り声を放って抜き去っていった。それはバイクだった。黄色いバイクだった。 「わっ」  と、声をあげたときには、コーナーの向こうに消え去っていた。 「おい、またやられたじゃねえかよ。たかが走り屋に」 「うるせえ! そんなにいうならやってやるよ!!」  散々たかがたかがと馬鹿にした以上、引っ込むわけにはいかない。  走り屋なんて、どうせサーキットで勝負する度胸もテクニックもなく、しかたなく峠道を走っているような、ジコマンオナニー野郎なんだ。おれたちでも勝てるさ。  と自分に言い聞かせ、バイクを追いかけようとしたとき、またミラーに何か写った。それもバイクっぽかった。 (またきたよおい)  舌打ちしながら、ミラーに写るバイクの進路妨害をすべく左右にハンドルを切りながらジグザグ運転をする。 「!!」  アコードワゴンに追いついた黒いバイク、CBR900RRのライダーはアコードワゴンの動きを見て、咄嗟にフルブレーキング。タイヤがロックして、すこしそのまま滑って進む。  CBR900RRは黒地に赤のラインが走って、そのライダーのアライのヘルメットは黒。ツナギ=ライディングスーツはバイクと同じように黒地に赤のラインが走った、妙に暗く、それでいて妙に目が痛くなりそうな色使いで。ミラーに広がる青空の中に、悪魔が一匹割り込んだような印象をアコードワゴンのドライバーに与えた。
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