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宙に浮いたミラーが着地し、ころりと転がって、草むらの中に隠れてしまう。
「ひえ~~、にげろお~~~」
と、急ブレーキを踏み、慌てて反転するアコードワゴン。
このままここにいては何をされるかわかったもんじゃない。
逃げながら、次から次へとバイクがやってきて、それとすれ違う。すれ違うたびに、恐怖は倍増してゆく。
下手すりゃたくさんの走り屋に囲まれて、男たちはボコられ、女たちには口では言えないようなことでもされかねないと思い、恐怖して、逃げる。
彼ら彼女らは、漫画の流行程度にしか走り屋というものを認識していなかったことを痛感していた。
CBR900RRはというと、構わずいってしまっていた。
そんなことがあったとは露知らず、タケシはYZF-R6をかっ飛ばしまくりだ。次々と迫りくるコーナーを、マシンを傾けハングオンでクリアしてゆく。
バイクと一緒になって風を切る。いや、風を切るというより、風にぶつかり打ち砕いてゆく。
アクセルを開けるたび、マシンは、YZF-R6は吼える。その咆哮は山々に響き、空(くう)を揺るがす。揺るがして、天空まで響かせて。
そうしてかっ飛ばしながら、コーナーの向こうからぱっとバイクが現れる。
(お、ヒデか)
CBR600RRに乗る悪友、左文字秀樹(サモンジ・ヒデキ)、通称ヒデだ。
ヒデもヒデで。
(お、タケシか)
すれ違いざま、赤いカウルに黒い翼が描かれるCBR600RRの咆哮、マシンサウンドが、YZF-R6のサウンドとぶつかり、かち割りあって。
一瞬だけ、ガンの飛ばしあい。
それは真剣を一瞬まじえて、火花が散ったようだった。
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