エピソードⅠ この野郎! その1

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 折り返しまで来た。  黒沢峠の出口に程近い待避所に滑り込み、今度は駐車場に向かって走り出す。そうすれば、峠に入った他のバイクたちとすれ違う。  黄色いバイクだった。それはGSX-R1000だった。  ふたりが同じタイミングで手を上げ挨拶すれば、むこうも同じように手を上げて挨拶をする。  そしてしばらく走ってCBR900RRとすれ違った。が、CBR900RRには無反応だったし、向こうも無反応だった。  ……、っと、いつまでもタケシの後ろにいるのがいやなヒデは、今度ばかりは同じラインを走らず、インから、アウトから、と絶えず隙をうかがっている。 (男のケツ見て喜ぶ趣味はねーんだよ)  と、YZF-R6のリアテールをにらみつける。  そうしているうちに次々と他のバイクたちとすれ違ってゆく。結構多い。今日は多めに来そうだ。  たいしたもので、ふたりはバイクとすれ違うたび、手を上げ挨拶をしていた。 すれ違うバイクの中にグリーンのZX9Rもあったが、何を思ってかCBR900RR同様これは無視したし、向こうもこっちを無視した。 「おうおう、やっとるのう」  とZX9Rのライダー、黒井鉄雄(クロイ・テツオ)がそういったことはもちろん知らない。  それはともかくとして、タケシはヒデをぶっちぎろうとし、ヒデはタケシをぶち抜こうとして。そのままのこう着状態が続く。かと思われたが。  ヒデもさるもの。タケシのYZF-R6がすこしふらついたのを見逃さなかった。  ちと下った左コーナーの突っ込み、ブレーキングをしくじってマシンをふらつかせてしまったタケシ。 「あうっ!」  と、どうにかコケないようにコーナーをクリアした、しかし、突っ込みでふらついてしまい、そのためにスピードをロスしてしまった。  コーナーをクリアすれば上り、なのだが、ミスったせいで立ち上がり加速が鈍い。 「もらった!」  上手にコーナーを曲がったヒデはすかさずタケシのイン、左側に並んだ。次のコーナーはそのまま上ってのまた左。  ということで、次はヒデがイン側だ。  アクセルをあけ、ぶち抜いた歓喜の雄叫びをあげるCBR600RR。
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