敗北国の悪あがき

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国王「貴方なら、その昔、炎の騎士とまで呼ばれた貴方なら理解してくれるはずだ。妻を病で亡くし、最後の宝である娘ももう殺されるか、奴隷にされるかという屈辱的な未来しか残っていない。」 国王は玉座から立ち上がりその場に跪き額を地面に擦り付けた。 国王「この通りだ、この老いぼれの最後の願い、最後の宝を、どうか追っての来ないところまで…どうか…」 床に涙をこぼし、顔がぐちゃぐちゃになるほどの願い。 その思いの丈を聞いても炎の騎士と呼ばれた男は表情を変えることはなく頷くこともなかった。 男「報酬は…この城にあるものならなんでもといったな?」 国王「引き受けてくれるのか?」 男「ふん、どうせもうほとんど力のないこの国だ、宝物庫を襲撃しても俺を止めることはできないだろうな。」 その言葉に王は顔を歪めた。まさか、荒らすだけ荒らして逃げるつもりか?と しかし男は続ける。 男「きっとかなり過激な盗みになるだろう。部屋ひとつか二つは吹き飛ぶだろうか? なんにせよ宝はもらっていくか。」 国王「貴様…どこまで腐っておるのだ…。」 男「何とでも言え。 そうだな、怪盗のように宣言をしてやろう。」 男は不気味な笑みを浮かべると自分のことを睨んでいる王に指を指しわざとらしく大きな声で言った。 男「数刻後貴様の宝、貴様の言う最後の宝を頂戴する!せいぜい警備を固めておくんだな!!」 国王はその言葉の意味を直ぐに理解し、目を点にして部屋から出ていく男を見ていた。 そして男は戸を開け、誰もいないことを確認すると小さく。 男「アンタは悪党に宝を盗まれる、アンタに罪は無い、罪は全て盗む俺にあるのだから。」 と呟き部屋を出ていった。 誰もいなくなりシンと静まり返る部屋の中、国王の「済まない。」と涙を流しながら消えそうな声で呟いた声と嗚咽だけが響いていた。
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