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ピリリリリリ。ピッ。
「兄貴ってさ、優柔不断だよね」
『……出張中の兄に対する第一声がそれか』
電話の相手は不快感よりも呆れを滲ませていた。
妹の突拍子もないセリフはもはや日常であるらしい。
「いやね、兄貴が今作ってる奴をちょっと覗いてやろうと思ってさ、見てみたんだけど……なにこのボツネタの量。
ダークヒーローはいるわ、和風ものはあるわ、SFはあるわ。
これだけで一つの歴史ができそうよ?」
『製作途中にはお蔵入りという名の犠牲が出るものなんだよ!』
声の音量が上がった。どうやら気にしていたらしい。
『全く、なんだって急に俺の趣味に首突っ込んでくるんだ。
まさかお前、遊び半分でいじくりまわそうなんて魂胆じゃないだろうな?』
「あははは、心配性だなぁ。
そうじゃなくて、ボツネタの中にね、『電脳天使』っているじゃない。
あれ、ナビゲーターとしてリサイクルしない?
誰かが説明してくれた方がやりやすいでしょ。
ナビゲーターだから世界全体を把握してて、情報収集も楽ちん。アイテムも預かってくれて、好きなときに電脳空間から取り出せるの!
どう、採用してみない?」
『ナビゲーターと情報収集のくだりは分かったが、アイテムの預かりは無関係じゃないか』
「お助けキャラなんだから、ついでよついで。
武器を変えたい時に、いちいち武器屋や倉庫やらを往復させる気?
面倒くさいじゃない!」
畳み掛けるように反論したところで、相手は納得したようであった。
ふむ、と思案げにうなる電話の向こうでは自分の頭を引っ掻く兄の姿がある事だろう。
みっともないから直せと口を酸っぱくして言っているにも関わらず、頭皮を傷つける悪癖は相変わらずだ。
いつか禿げろ。
『いいアイデアだとは思うが……少々世界観に不釣り合いじゃないか?』
「ああ、まあ、剣と魔法のファンタジーにはね。
あんだけ道を模索しといて結局王道に落ち着いちゃうってどうなの」
『どう寄り道しようが、俺はこいつを完璧にしたいんだよ!』
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