イチマイメ

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イチマイメ

「まーま?」 「どうしたのー?」 ある休日の昼下がり。 最近新しくできたショッピングモールの食堂には、 お腹を空かせた人達が、食事やら財布やらを持って溢れかえっていた。 『こっちおいで』 そんな中、目に着いたのは一組のカップル。 きっと周りから見たら、何の変哲もない普通のカップルだろう。 しかし、私の目にはそうは映らなかった。 『ね、あれ、誰……………?』 思わず動揺し、声が少し震えている。 そんな私に気付かず、無邪気に答える我が子。 「あ!おとうさんだあ!」 「あとね、みゆきさん!」 『みゆき、さん……………?』 「あのねっ、お菓子くれたの!」 「このまえ、まーまにしぃーってね!チョコレート!!」 嘘。 「あー!しぃーっだから、いっちゃダメなんだよ!」 うそ。 「ぱーぱもね、しぃーって!」 ウソ。 「だから、いっちゃダメってばー!」 その言葉で、今までの心のつっかえがガタンと、音を立てて崩れた。 我が子達の声が、遠くなっていく気がした。 今日、急に仕事が入ったこと。 最近、帰って来るのが遅いこと。 なぜか鼻につく、甘い香り。 そして、たまに見せる夫の冷めたような瞳。 ………………そっか、そっか。そうだったのね。 気付いたら子供達を置いて、夫の方へ走っていた。 真偽を確かめるため。 「あなた…………………?」
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