第1章

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今日は現実逃避が捗るなぁ……なんていうどうでもいい事を思いつつ、ボクは恐る恐る音が聞こえた方へと振り返る。 するとそこには口元から涎を垂らしまくっている緑色の毛皮を纏った熊らしき生き物が佇んでおり、ボクを凝視しているその瞳からはとある純真な気持ちがはっきりと伝わってきた。 ―――美味しそうな獲物がいる。 「ボクは美味しくなんてないんだぁぁぁ!!」 「グルルァァァ!!!!」 背後に佇んでいた生き物の目的を悟ると同時にボクは全力で逃げ始め、そんなボクを捕食したい熊らしき生き物も雄叫びを上げながら追いかけ始めた。 恐怖で固まる事無く咄嗟に背を向けて逃げ始めたのはいいものの、ボクは現在いるこの場所に関する情報なんてものを何一つとして持っていない。 そのため背後に迫る熊らしき生き物から逃げ切る事は絶望的ともいっていいだろう。 ただでさえ土地勘がない事に加えてお世辞にも体力が多いとは言えないボクに対し、後方にいる熊らしき生き物はそのどちらもがボクを優に上回っているのだろうから。 しかしだからと言って逃げるのを止めるわけにはいかない。 ボクが逃げるのを諦めて走るのを止めた瞬間、後ろの熊擬きは間違いなくボクを捕食するだろう。 痛みを感じる間もなく一撃で殺されるのであればまだしも、運が悪ければ生きたままボリボリと食べられるような可能性も十二分にある。 ……そんなのは絶対にお断りだ。 昔から死ぬ時は愛する奥さんに見守られながら老衰でこの世を去ると決めているんだぞ。 だからあんな熊擬きに食べられて一人寂しく死んでいくのは何があろうと絶対に嫌だ。 たとえ最後は熊擬きに捕まるのだとしても、最後の瞬間まで逃げ続ける事だけは諦めてやるものか!!
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