1人が本棚に入れています
本棚に追加
教室に入った俺は、学生鞄を机に置き、隣の空席を見る。
この席に本来いる女子は、三枝 香織(さえぐさ かおり)。
香織は図書委員の仕事で毎朝いない。いろいろと仕事が溜まっているようで、時折、俺は彼女の仕事を手伝っている。
鏡香が言っていた〝あの子〟とは、香織のことだ。恥ずかしいが、実際に俺は香織のことに興味が全くないわけでもない。むしろ好きである。
だから、鏡香の言葉に反論できなかったのだ。
「ったく……」
自嘲的気分になりながら外を眺める。
晴れ渡った清々しい青空。そして、窓側の席の長髪の女子が一層美しく見える。
「ハッ! ……何を考えてるんだ俺は!?」
今、窓側の席で机に向かって真剣に作業をしている女子は、月島 リカ(つきしま りか)。そんなに親しい仲でもない訳だから、俺は無視しようとするが、なぜか気になってしまう。
そう思いつつも俺は無意識にリカに近寄っていた。
「リカ……?」
「………………」
「お~い……」
「……何ですか? 私は今忙しいのです。用なら後にしてもらえますか?」
「あのさ、そろそろ敬語はやめないか? ほら、お前が転校してきてから3か月は経つだろ? もう馴染んだんだしさ、普通に話そうぜ。じゃないとさ、……俺の気が狂うんだ」
「なら、話しかけないでほしいです」
「………うッ」
今、俺とリカの間に、深い溝が出来た気がしたぞ? それに……冷たい、冷た過ぎるよ、この人。
「あッ! ……そうだ。今お前が書いてるそれは何だ?」
リカは紙に魔法陣と意味不可解な文字を書いている。
旧約聖書第6篇……?
「黒魔術か何かの勉強か?」
「何でもないです! あの、もう話しかけないでください」
リカは急いで片付けると、席を立ち、教室から走り去っていく。
「……お、おい……」
積極的にリカに話しかけた結果がこれか。なかなか痛い結末を見せてくれるな……。
「あ、ユキトくん。おはよ」
すると、入れ替わりに、香織が図書仕事から戻ってきた。
「香織、おはよう」
「さっき、物凄い勢いで月島さんが出てきたんだけど。……何かあったの?」
「あー、いや……何でもないさ。あいつ最近、黒魔術に没頭してるからきっと疲れてるんだろう。ったく……魔法、魔女なんて地球上に存在するわけないのに」
「そうかなぁ。魔法って素敵だと思うよ。私は信じるよ」
「香織まで……。はぁ…」
俺は本日二度目の溜息をついてしまう。
最初のコメントを投稿しよう!