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空は快晴。
雲もない。
夏休みの始まりにふさわしい天候だった。
フェリーに乗り込むと当然、稲森を甲板に連れ出した。
空から降り注ぐ強い日差しは、海の波間に反射して辺りを一層輝かせる。
「眩しい…」
そう言いながら稲森は波が揺れるたびに散らばる夏の煌(キラ)めきを
嬉しそうに見つめていた。
「見て!鳥!」
「ウミネコだよ。ウミネコ」
「うみねこ?」
「鳴き声が猫に似てるからだってさ。俺にしてみりゃ、鳥にしか聞こえん」
「あはは。それ言っちゃダメでしょ」
子供みたいにはしゃぐ稲森。
潮風が彼女の頬を撫で
髪をなびかせる。
稲森の横顔は
海の煌めきよりも
太陽の光よりも
眩しかった。
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