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障子の向こうで人影が動いた。
「紫織さま、私です。絹です」
「あらっ、お絹ちゃんなの?」
紫織はスッと立って縁側まで歩き、3尺だけ開いていた障子を更に広げた。
新三郎が廊下に眼をやると、下働きらしい小女が低頭している。
「明日まで里に居ていいと言ったのに、どうしたの?」
紫織は畳で正座した。
「はい。でも……わたし、こちらのお屋敷がいいんです」
お絹は廊下で、かしこまったまま返事した。
「何があったのです。里でなにか……まあ、いいわ。その事は後で聞きます。顔を上げなさい」
「はい」
顔を上げたお絹は、化粧っ気のない赤ら顔だった。新三郎の眼には、十五、六歳の素朴な娘に見える。
「ちょうど良かったわ。大事なお客様だから、昼餉を用意してちょうだい。台所に魚源から届けてもらったお魚があります。後は任せます」
紫織が笑顔で伝えたので、お絹は安心したようだった。
「はい。山菜を持って参りました。すぐに、ご用意いたします」
お絹は明るく返事をして立ち上がった。そして奥へ向かって歩き出した。
「急がなくて良いわ。丁寧にね。後で私も行きます」
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