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「たしか藤田先生の墓所から戸田様、安島様の墓所へ回ると」
「えっ? 藤田東湖先生の墓所へ?」
藤田東湖は水戸学の大家であり、戸田中太夫と共に、藩主・徳川斉昭の側近として仕えた。しかし安政2年の大地震により、江戸の水戸藩邸で死去した。母を助ける為、崩れ落ちた鴨居を支えて力尽きたのである。
それは5年前の予期せぬ出来事だった。
「ええ。でも、その後に弘道館で稽古をつけると言って出掛けました」
紫織は振り返りながら告げ、廊下にひざまづくと客間の障子を開けた。
「どうぞ、こちらへ」
「そうですか。弘道館か……懐かしいな」
新三郎は刀を外して部屋に入った。
「さあ、どうぞ。お楽に。今、お茶を淹れますわ」
紫織は座卓の前に座布団を置いて、そこへ座るよう促した。
そして火鉢に炭を加えてから出て行った。
弘道館(こうどうかん)は、日本最大の藩校である。
水戸弘道館とも云う。
天保12年(1841年)第9代水戸藩主【徳川斉昭】によって水戸城・三の丸内に開設された。
初代教授頭取には【会沢正志斎】と【青山拙斎】が就いた。建造は【戸田蓬軒】が務め、経営にあたる学校奉行には【安島帯刀】が任命された。
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