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水戸藩の財政は常に逼迫状態であったにも関わらず、藩主の方針で学費は無料であった。
また、弘道館には藩主・斉昭の趣向により設立当初から多くの梅の木が植えられた。
斉昭の漢詩『弘道館に梅花を賞す』には、「弘道館の中には千本の梅がある」と記されている。
「さあ、どうぞ。梅羊羮が手に入りましたの。商家の門弟が持って来てくれたのです。お客人が新三郎さまなら私も、ご相伴いたしますわ」
紫織が茶菓を勧めた。
「あっ、はい。それは無論……ええ、どうぞ。頂きます」
新三郎は思わぬ厚待遇と紫織の申し出に驚きながら茶をすすった。
「ああ、おいしい。新三郎さまのお陰で私も贅沢ができますわ。この梅羊羮は全部、新三郎さまが召し上がった事にしておきましょう。ねっ? それで良いですね?」
紫織が屈託のない笑顔で新三郎を見る。
「はっ? 私が全部? はははっ……紫織どのは愉快な人だ」
新三郎は笑いながら梅羊羮を手に取った。
「それで……新三郎さまは、一体、何処へいらしてたのですか?」
「はっ?」
「隠しても駄目ですわ。旅からお帰りになったばかりでしょう。お家にも寄らず」
「何故、そう思うんですか?」
「編笠をかぶって、草鞋を履いていたでしょう。袴も埃で……お家に帰ったなら、母上さまが放ってはおかない筈です」
「あっ! そうだったか」
紫織の言う通りだった。
新三郎は父母に暇乞いをする為に江戸から帰郷したが、顔を見れば決意が鈍ると思い直し、屋敷の周りを二度ほど回っただけで家を離れたのだった。
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