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「えっ? 梅の木の枝を折った?」
「そうですわ。あなたは私に、内緒にしてくれれば……そうすれば、どんな事でも聞いてやると言われたのです。それは、もう拝むように。では私をお嫁に貰ってくれますかと尋ねたら、うん、いいよと」
「ええっ? まさか、そんな! それは初耳です」
「何をとぼけているのですか! 貴方がそう言ったのです。武士に二言は許されませぬ!」
紫織が強い口調で言い放った。
「い、いや。待って下さい! それは誤解です! 私は決してとぼけてなど……本当に覚えていないのです」
「うふふふ……おもしろい方。あなたは昔から、そうでした。次に来た時は毬つきで遊んであげるなどと言いながら、覚えていないのですから」
紫織は一転して柔らかな笑顔になった。
「はあ。ええ、そうです。元服以前の事は実は、よく覚えていないのです」
「まあ、良いですわ。その事は許してあげます。ただし、貴方が叱られないようにと、枝を折った事を、私は内緒にしてあげたのですから」
「なるほど! 分かりました! 貸しと言うのは、その事ですか。ええ確かに、紫織どのは私の恩人です。分かりました。話しましょう」
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