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世の中には経済的という意味でだが、いわゆる「裕福」な人間と「貧乏」な人間が存在する。
豪邸に住み、高級車を乗り回し、休みには海外でリッチなバカンスを過ごし、お金の心配などまったくないような人間もいれば、あくせく働いても一向に生活は楽にならず、出世も出来ず、毎月のローンの返済に苦しみ、日々節約の生活を送っている人間もいる。
そもそも、こうした「不公平」はいったい何が原因なのだろうか?絶えず幸運の女神に微笑まれているラッキーな人間と、そっぽをむかれているアンラッキーな人間の違いはどこにあるのだろうか?
考えてみれば、誰にでも幸運が訪れるチャンスというものは何度かあるのではないだろうか?「幸運」を携えた女神は間違いなく全ての人の扉をノックするのである。
そうした時、「ラッキー」を手にする人間は、快くドアを開け、自分の中に招き入れ、その幸運の尻尾を積極的につかみ、しっかりと離さずにとことん引き寄せるパワーがある。
「アンラッキー」な人間は、突然のノックに警戒して、硬く扉を閉ざし、頑として受け入れないか、扉を開けても半信半疑でおそるおそる尻尾をつかもうか、どうしようかためらっているから、その間に気まぐれで短気な幸運は逃げていってしまうのかもしれない。
この話の主人公も、どちらかというと後者に属する人間と言えるだろう。しかし、そんな彼にも思いがけない幸運の尻尾は訪れるのだ。
その尻尾をしっかりとたぐり寄せられるか、恐る恐る手を伸ばしてみるか、それはその幸運に遭遇してみないとわからないことなのかもしれない。
尾崎良夫はうだつの上がらない平凡な48歳のサラリーマンである。
一流とは言い難いが、そこそこの大学を卒業し、大企業とは言い難いが、中堅規模の総合商社に入社し、ごく普通の恋愛を経て結婚した。
家族は妻と二人の子どもというごく平均的な家庭である。
十年ほど前にやっとのことで都下に新築分譲マンションを購入したものの、当然のことだがその住宅ローンを抱え月々の返済に四苦八苦している。
しかも、まだまだこれから教育費がかかる中学生の息子と小学生の娘もいる。
購入した当時は4千万円したマンションも、バブルがはじけて以来、その資産価値は下がる一方であり、今となっては売却でもしようものなら、逆に借金が増えるだけで、どうにも身動きできない状態である。
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