第1章

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 駅前の脇に伸びている細い路地にポツンと灯りが見えた。  「サマージャンボ宝くじ好評発売中!」という旗が、そんなに風があるわけもないのに、ゆらゆらと揺れていた。その動きは、まるで良夫に手招きをしているように思えた。  「宝くじ売り場か。オレが帰宅するのはいつももっと早い時間だから知らなかったが、最近じゃ宝くじ売り場も深夜営業するようになったのかなぁ」  そんな宝くじ売り場などあるはずがないのは、誰が考えたってわかりそうなものだが、その日の良夫はなぜか素直にそんなふうに考えた。  それは優しく「いらっしゃい」と呼びかけているように見える、ゆらゆらと揺れる旗の動きのためなのか、今日が金曜日で明日は休みという開放感からなのか、わからなかった。  駅前とは言っても、この辺りはまだほとんど店らしきものもなく、駅前の定番、24時間営業のコンビニと、これまた駅前にはお決まりの銀行、ファーストフードのチェーン店、それに繁盛しているとは思えないパチンコ屋がある程度で、コンビニ以外はすでに閉店しており、「明るさ」が乏しかったから、なおさらその路地脇の宝くじ売り場の灯りは際立っていた。  「ちょうどいい。両替目的で宝くじを買ったら、見事高額当選した、なんていうウソかホントかわからないような話を聞いたことがあったな」  良夫はバスを待つ列からはずれ、灯りに導かれるように路地脇の宝くじ売り場に向かった。  「こんばんわ。こんな時間まで店を開けているなんてめずらしい売り場だね」  「そうかえ?」  良夫はギョッとした。宝くじ売り場には似つかわしくない老婆が座っているではないか。良夫の表情にその驚きが露骨に現れてしまったようだ。  「ヒッヒッヒ。お前さん、今、わしを見て驚いたようじゃのう。まるで、悪魔か醜い魔法使いの婆さんを見たような顔をしておったぞ。ヒッヒッヒ。」  「い、いや、その、こんな時間にこんな年配のおばあちゃんが宝くじを売っているとは思わなかったから、ちょっとびっくりしただけだよ」  「ヒッヒッヒッヒ。そうかえ、まぁ、そんなことはどうでもええ。お前さん、宝くじを買うのかえ?」  「あ、ああ、そうそう、じつはバスを待っているんだが、あいにく小銭がなくてね。両替も兼ねて、大金を当ててやろうと思ってね」  良夫は財布からなけなしの1万円札を出した。
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