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街中を駆けずり回る覚悟でいたのに。
何も無い、ただのだだっ広い庭。
そこにポツンと1人佇んで暗い空を見上げていた。
「おいっ」
玄関先で叫んではみたが、元々は資産家だった祖父が住んでいた無駄に大きい屋敷。
遠すぎる距離と雨の音に掻き消されたのが分かる。
「だぁー……ったくよっ」
俺は次にとるべき行動が分からずに頭を掻きむしった。
気づいた時には俺の体も雨に濡れ、後先のことなんて考えていなかった。
ようやく辿り着いて掴んだ手首は簡単に折れてしまいそうなくらい細く、見放さくて良かったと不覚にも安堵した。
「あ、あのっ……」
辛うじて届く彼女の声は全て無視し、屋敷内へと戻る。
何度、強い抵抗を見せられても離してやれない。
それでも「ちょっと」だの「待って」だのほざくから俺の感情の糸はとうとう切れた。
「黙ってついてこればいいんだよっ」
こうやって最後に本気の感情を晒したのは、いつだっただろうか。
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