紫陽花の咲く庭で……

64/80
前へ
/88ページ
次へ
咲島の声が止むのを見計らってドアを開けた。 「あっ……」 なぜか握りしめていた携帯を慌てて背中の後ろに隠した。 もう、確定なのだろうか。 痛む感情を押し潰して平静を装った。 「まだ起きてたのか?」 「あ、もう寝ますよっ」 いろんなことに掻き乱されているのは自分だけなのかと思うと、笑顔の咲島に苛立つ。 「悪いけど、コーヒー入れてくれる?」 「えっ、はい……」 咲島が壁の時計をチラッと見たのが分かった。 「こんな時間に?」とでも言いたかったのだろうか。 「書斎に持ってきて」 今から寝ると言っている咲島の仕事を増やしたりして、自分で自分の惨めさを膨張させた。
/88ページ

最初のコメントを投稿しよう!

711人が本棚に入れています
本棚に追加