紫陽花の咲く庭で……

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進めるつもりの無い原稿に向き合っていた。 ノックされたドアに返事を返すと、ギッと音を立ててゆっくりと開いていく。 「あの、コーヒー持っ……」 「こっち持ってきて」 咲島に背を向けたまま指示を出す。 「あんまり無理しないでくださいね?」 コーヒーと一緒に置かれた声。 こんな時でも労ってくれるのは咲島の芯が優しいからだろう。 それに比べて俺は素直になれない性。 「無理しないと書けないから」 「ですよね……じゃあ、私寝ますね」 「あぁ」 離れていく空気。 俺の中の感情はドロドロなのに、やっぱり引き留めたくなる。 それが本当の想いだから。 「あの……」 咲島の声にマグカップを握ろうとしていた手がピクッと跳ねた。 「何?」 避けて通れるなら、そうしたい。 聞かなくていいなら、聞きたくない。 「私……ここを出ようと思います」 やっぱりか…… 前もってしていた覚悟など全く緩衝にはならなくて、俺の心臓はけたたましく崩れ落ちた。
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