紫陽花の咲く庭で……

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「逃げんの?」 何も言わずに部屋を出ようとしていた咲島を後ろから捕らえた。 壁際に追いつめた獲物を簡単に放すつもりはないから。 「あ、あの、あの……」 「何で急に出ていこうとか思ったわけ?」 もっと優しく穏やかに聞いてやれば咲島だってすんなり答えられただろうに、そうはしてやれない。 こう見えて俺、必死だから。 「な、ん、で?」 咲島の答えを引き出すためなら多少強引になってもいい。 ドアに手を掛けようとした咲島の手を上から掴んだ。 「逃がすかよ」 逃がしてたまるか 好きなんだから。 もう、地の俺でいくって決めたから。 恥ずかしさで俯く咲島の首の後ろに軽く唇を這わせた。 「……っ」 声にならない驚きを楽しんでみる。 「さっさと言わねーと、もっとスゴいことするから」 はったりじゃない。 このままじゃ理性なんて無意味なものになってしまいそうになる。 自分との格闘の最中、俺の手の下で小さな手がギュッと握りしめられた。
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