一国二君

4/20
前へ
/761ページ
次へ
信忠が出陣を決定すると、岐阜城に残していた兵を率いて自ら信濃に入る事を信長に求めた。 これに丹羽長秀は危険すぎると咽び泣きながら止めるが、信長が暫く考え込むも許可する。 だが当然、信長とて考えなしで許可した訳ではない。織田家は当分の間は西に勢力を広めたいと考えるが故であった。 現状の東の諸国は、武田家や上杉家、北条家と多方面で戦うには荷が重いので西に集中したく、武田家と外交ルートが残るのは好都合である。 次いで能登と越中だが、これは元々言われるまでもなく切り取るつもりでいた。 しかし両国は上杉家の圧政故に国としての機能が著しく低下しており、立て直しには如何せん時が必要である。 武田家に越中を攻められたら立て直しを不可能と判断し焦土作戦すら考慮したので時は得難くもあるのだ。 そして出陣許可を得た次の日には戦支度を終え、信忠軍2,000名、丹羽軍1,500名、滝川軍1,500名、森軍500名の軍勢を率いて出陣。千代女の道案内の元、上杉軍の背後へと回り込む事に成功する。 「信忠様、武田軍より鬨が挙がっています。如何致しますか?」 「応えてやれ」 織田軍を確認した武田軍から鬨の声が響き出される。そしてこれを応えるというのは、武田軍の味方をするという意味合いも持つ。 「お前らぁッ、声を挙げぇいッ!!エイッ、エイッ!!」 「オオォォォォッ!!」 鬨の声の応じを聞いた武田兵は歓喜に沸き上がり、同時に上杉軍からは騒めきが広がり浮足立った様子が見て取れた。 「先鋒、前進せよ。上杉兵の威圧を最優先とし、無駄な戦闘は避けろ」 あくまでもこれは武田家と上杉家の戦。故に信忠は損耗は避けるように指示をだしたのだが、これを見た鎌田新介と長秀は眼を点にする。 「のっ……の、信忠様が突撃以外の指示を出したッ!!」 そして心に思った事を抑えきれずに叫んでしまう。
/761ページ

最初のコメントを投稿しよう!

4497人が本棚に入れています
本棚に追加