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時は丑三つ、夜は更けた。大地照らす太陽は完全に沈み切っており普段であれば誰しも寝静まる時刻となる。
朝倉軍は予定通りに関ヶ原に於ける総撤退を開始した。
まずは先んじて本陣を構える笹尾山の軍勢が撤退を開始、この二刻後に天満山の軍勢も撤退を開始する。
「……定刻か。天満山の軍勢もそろそろ撤退だな」
「殿軍は俺に任せて退いてくれて構わなかったんだがな、景健のオッサン」
「此処で命を燃やさずに何時燃やすか?あとオッサン言うな」
南天満山の殿軍を引き受けたのは景健の軍勢であり、直隆と並び周囲の警戒を行っていた。
そして北天満山では赤尾清綱、天満山と松尾山を繋ぐ街道には吉家の軍勢が占拠していたのである。
「まぁ、端から見ればこの状況下で、朝倉軍が撤退するなんて夢にも思わんだろうな」
「気い抜くなよ、夢にも思わねえ事は敵だって十八番なんだからな」
景健はふと後ろを振り返り笹尾山に眼を向ける。撤退偽装の為に篝火は残されたままであるが、朝倉軍が制圧していた時の活気がなく、虚しさだけがこの胸に残る。
夢見た天下は露と消える。しかし僅かなれどの夢であろうと、主たる義景が生きている限り再起の芽は残るのだ。それに期待するしかない。
「…………ッ!!オッサンッ、前を見ろッ!!」
「なッ!!そんな馬鹿なッ!!」
直隆の叫び声に釣られて眼を前に戻す。そしてそこに映った光景に眉をひそました。
関ヶ原の盆地から、一つまた一つと篝火と思われる火が次々と灯されて、瞬く間に篝火は辺り一面を包み込むように広がっていたのである。
その数は一万以上の大規模軍勢。明らかに追撃を意識したものであり、景健は固唾を呑んで大きく息を吸う。
「征くぞ者共ぉぉッ!!!!」
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