継がれしもの

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景健は目の前の光景に固唾を呑む。 関ヶ原全域を埋める木瓜の旗、織田の軍勢その数18,000。更にほぼ全軍迷う事無く前進を仕掛けてきている。 夜間強行偵察にしては軍勢規模が異様にも多く、突撃を敢行するなど普通に考えるとあまりにも不自然な点が多かった。そしてこれらの要素を見て、想定される最悪の事態が脳裏に浮かぶ。 織田は朝倉軍が撤退する事を確信を持って攻撃してきている。 「……くッ、まさか情報が漏れたか」 「御託は後だぁッ!!真柄隊、総員抜刀ッ!!」 「左衛門は遊撃隊として攪乱!!火縄は柵から先にでるなよ!!」 朝倉軍が防衛の為に戦闘態勢を整えている最中、攻めに転じた織田軍でもあれやこれやと慌ただしく駆け回っていた。 「見えたかッ!?敵の動きは確かだなッ!!」 この軍勢の中には織田家当主たる織田信長がおり、物見梯子の上に昇る兵に叫び挙げる。 「笹尾山及び天満山から西へ移動している篝火を多数確認ッ!!撤退行動をとっていると確証して間違いはないでしょうッ!!」 「結構ッ!!織田全軍、臆せず掛かれぃッ!!」 後方の朝倉軍が撤退しているという事は、信長自身も半信半疑であったのだった。 そもそも今回の全軍を用いて追撃は信忠が急に登城したと思ったら、敵国である武田家の間者から情報を仕入れたから攻めるべきだと言われたのがきっかけである。 更に松姫と婚約した事や久秀が清州に軍を置いていた事、挙句の果てに朝倉景鏡を討ち取ったなど信長にとってみれば、意味が解らない話ばかりであったが、万が一情報が正しくば唯一の勝機となりえる事柄だ。 救出対象である横山城と坂本城も何時まで耐えきれるかも不明確である。信長にとって他人の命を掛けた分の悪い賭けなど反吐がでるが、今は持てる駒札全てを叩きこんでやるしかない。
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