継がれしもの

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柵に向かって突き進む一団。この先頭を駆ける長可は周りの大人たちと比べると小柄であるが、森兵の誰もがその背は大きく見えていた。 そして長可は誰よりも眼をぎらつかせて、父の遺品である十文字槍を携えながら大きく息を吸い上げる。 「我ら森兵ぃッ!!声を出せええぇぇぇぇぃぃいいいッッ!!!!」 「っぅうぉぉぉぉおおおおおおおおッッ!!!!」 長可は駆ける足をより一層速めながら、天地を響かせる程の咆哮を叫び挙げて、後ろに続く森兵も負けじと荒々しく応じた。 この小さくも勇猛な兵を眼にして、浅井兵は思わず後ずさりしてしまい長秀も呆気を取られてしまう。 「あの童……可成殿の倅か!?者共ッ、あれほどの童の後ろにいつまで臆しているつもりだッ!!我らも敵陣に押し進むぞッ!!」 「応ッッ!!」 士気を盛り返した織田兵の突撃により、次々と浅井兵は倒れ逝き防御柵も破壊される光景が目立ってゆく。この有り様に幕切れを悟った清綱は一息つくように弓を投げ捨てて刀を引き抜く。 そして清綱に付き従う満身創痍の脇坂安治に声を掛ける。 「安治、若い衆を集めて退却しろ」 「何を仰いますかッ!!拙者もまだ戦えまするッ!!」 「阿呆、国の為に踏ん張って死ぬのは年寄の仕事だ。若いのは年寄が守ったもんを大きくさせるのが仕事だぞ?」 清綱は小さく間を開けて言葉を続ける。 「死ぬ時は年取ったら儂と同じように死ね。だから今は生きろ、命令だ」 「……くぅッ…………最後の御教授……心得ました」 安治は前だけを見据える清綱に一礼し、後方に待機させていた僅かばかりの若者中心の一団を引き連れて退却を開始する。 そして清綱は最後まで踏みとどまり、この地に屍を晒して果てた。
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