継がれしもの

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直隆の脚は止まらない。槍が向かって来ようが弓矢が飛んで来ようが鉛球が飛んで来ようが一向に止まる気配を感じられない。 大きく振られる太郎太刀は、一振りで幾人もの人々を宙に浮かせて吹き飛ばす。人が藁の人形かの如くに舞い上がり、人の命が嵐の中で容易く消える灯が如くに絶えて逝く。その男が行く所、血煙が舞い上がり残るは屍のみ。 そしてついに金の唐傘を捉え織田木瓜が描かれる陣幕を叩き切って突入した。 「のぉぉぉぶぅぅぅなぁぁぁがっああぁぁぁぁぁッッ!!!!」 織田軍の本陣に足を踏み入れた直隆の眼には多くの織田兵が映ったが、その中でも一際に存在感を醸し出している男に注視する。 そいつこそが信長だとすぐさま全神経の直感が轟々と告げた。 「会いたかったぞッ、話したかったぞッッ、殺したかったぞッッッ!!信長ぁぁッ!!!!」 更に踏み出して標的に向かって走り出すが、信長はその手を振りかざして鋭い眼つきで声を挙げた。 「射撃開始ぃぃッ!!」 「っな!!?」 信長の指示と同時に陣幕の外から数えきれない程の発砲音が鳴り響き、幕を引き裂き割け破れて数えきれない数の弓矢と鉛玉が真柄兵に降りかかる。 「だからどうしたぁぁッ!!」 しかし撃たれようが直隆は倒れる気配すら見せず、更に真柄兵も血反吐を吐きつつも立ち上がった。 だが真柄兵が全滅していない様子を見て、後ろに控えていた信長直属の馬廻衆が動き出す。 直属の馬廻衆は、周りに敵しかいなかった信長の尾張統一前から数十年に渡り戦い抜いた叩き上げの英傑である。彼らは武芸に秀でた真柄兵に臆する事なく次々と首級を挙げていく。
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