継がれしもの

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直隆は撃ち抜かれた拳を握りしめ、溢れ出る己が血を振り払って信長に歯を見せた。 「どうした信長ぁぁッ!!御自慢の手駒もこの程度か、ァァァああん!?」 「くっ、下郎が信長様に近づくなッ!!」 そして更に信長に向かって歩む姿を見て、阻止するべく幾人もの馬廻衆が一斉に直隆の背に槍を刺し立てる。だが刺された本人は、まるで気に留めずに一度だけ後ろに視線を向けて鼻で笑うだけだった。 直隆は死に逝く路だと解りきっているいようと、敵が幾百と幾千と幾万と跋扈し蔓延ろうとも突き進み命散らし前へと駆けり。 殺し、殺し、殺し進み。背後には無惨な血肉の塊が周囲を紅色に染め上げ、己が全身に血化粧を着飾る姿に信長は美しさすら感じられた。 「よくぞここまで来た、鬼の兵よ」 直隆はあと一歩踏み込み手を伸ばせば信長に届く距離まで詰めてみせた。 しかし信長はカラカラと笑いながら、手を叩いてその勇姿を讃える。 「儂を殺すか、それこそが貴殿の持つ天下であろう」 「ったりめぇだ。俺様は俺様の望みを叶える為に、持てるもん全部突っ張ってんだ」 「ならば叶えてみせよ、見届けてやろうぞ」 信長の言葉と共に直隆が動き出す。 直隆の右手が信長の頭蓋を握り潰すべく真っ直ぐ伸ばされたのだった。 その伸び迫る掌はまるで壁が向かってくるが如き大きさと恐怖であり、掴まれれば後悔する間も無く殺されるであろうと本能が叫びあげる。 だがこの瞬間、信長は恐怖に後ずさる事なく前へ、後悔など残さぬが為に前へ踏み込む。 腰に閃く不動国行が牙を剥く。そしてその場に居る者の眼に映るは、直隆の伸ばされた手が血肉を崩し舞い上がる光景であった。
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