継がれしもの

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義景は関ヶ原を背に越前に向かって馬を駆けていた。 遠くから微かに耳に響く火縄銃の乾いた発砲音と悲壮と悲哀に満ちた、聞くに堪えがたい叫び声も共に入ってくる。 脳裏には一つの単語が思い浮かばれる。刀根坂の戦い、忘れもしなくする筈もない。 前の時代でも朝倉軍は撤退の折に刀根坂の地にて織田軍の追撃を受ける。そしてこの際に朝倉軍は多くの者が死に絶えて屍を晒した。 山崎吉家も死んだ、山崎吉延も死んだ、斎藤龍興も死んだ、鳥居景近も死んだ、高橋景業も死んだ、青木康忠も印牧能信も中村新兵衛も山崎長吉も河合吉統も名の知らぬ誰かも皆死んだ。 我が為に戦ってくれたにも関わらず、如何にして戦い続けて死んだのかもわからない。何も知らないままで家臣を死なせて自らも死んだ。 その腸が煮えくり返る苦渋をまたも受けてしまっていると実感すればするほど、怒りのあまりにそのまま死に絶えてしまいそうである。 「義景様ッ!!急報でッ、急報で御座いますッ!!」 「如何にした!!もうこれ以上の何を聞いても驚きはせんぞ!!」 近江に入った辺りに、先んじて進路の確保の為に進軍していた先遣隊が慌てて引き返して来た。 義景はどんな悪い報告が来ようが受け入れてやろうと眉をひそめながら報告を急かす。 「横山城を攻めていた浅井殿が劣勢ッ!!織田勢に押し込まれつつあり、このまま街道を進んでは敵と接触してしまいますッ!!」 「…………ぁ?」 報告を聞いた義景は驚きのあまりに馬の脚を止めてしまう。そして狐につままれたように目を点にして固まってしまった。 「…………なにぃッ!!?」 近江の浅井軍が押し込まれたという事は、朝倉軍の撤退路は封鎖されたという事と同意義である。朝倉家は織田家に対して完全な敗北が決定された。
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