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遠い意識の中で声が聞こえる。
誰の声かもわからないが、徐々に声量が大きくなっていき意識がハッキリとしてきた。
「おい、起きろ。起きろゴラァァッ!!」
「…………うるさいぞ、左衛門」
「起きろぉ!!禿ッ、老け顔ッ、オッサンッ!!」
「おい、起きてると言ってんだろうが」
大きな声に起されて眼を開けた朝倉景健は、横目で耳元に向かって叫び挙げる真柄直隆が視界に入った。
あまりに騒々しい声に起きはしたが、まるで数日間寝続けたかの様に体中が気怠く軋む感じがする。そして辺りを見渡して見ると、目の前に向こう岸が見えない程に広がっている川があり、その河原の地べたの上で寝ていた。
通りで足腰が痛いわけだと思ったが、そもそも何でこんな所で寝ているのかもよくわからない。周りを見渡して見ると、多くの家臣や見知った顔の者たちが談笑したりとだらだらと歩いている。
「……此処何処だ?」
「三途河らしいぞ?オッサンも死んだんじゃねぇの?」
「何言ってんだ、お前?」
直隆の言葉に景健は呆れ顔で適当に相槌を打つ。
「まぁ、なんだ。オッサンはまだ何とかなる様なんで気にするこたぁねぇよ」
「……本当に何を言っている?」
だが気にせずに話を続ける直隆に対して違和感を感じるが、健景が感じた変化はそれだけではなかった。視界が徐々に霞んでいき体までも白く霞み消えてしまいそうであったのだ。
「何だこれは!?どうなっている左衛門!?」
「時間が来たってだけだよ、多分な。オッサンはまだ向こうで必要だ、死んだ俺様たちや残された奴らの為にも気張れよ」
「左衛門!!何を言っている、お前も来い左衛門ッ!!」
「……あばよ、景健」
景健はよくわからない事態に足掻こうと無我夢中で直隆に手を伸ばすも、その手が届く前に姿は消えて二人は別たれた。
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